秋の祭りの晩だった。母さんに手を引かれて入った、社の裏の見世物小屋。目の粗いむしろが脛をちくちく刺して嫌だった。薄暗い舞台に最初に立ったのは双子の少女で、ぴったり揃った動作で足元の小さな箱の中につま先を入れると細い体躯を器用に折り曲げ、箱の中にすっぽり収まっていく。最後に中からぱたりと蓋が閉じられ、舞台脇の白髪の男が拍手を促した。二人の仮面を被った男がそれぞれ双子のみっしり詰まった箱を抱えて運んでいくと、今度は真っ白い顔の男がお手玉をしながら出てきた。赤いのと青いのと紫色のと、やたら小さい、白と緑のまだら色。よく見ればあれは男の目玉だ。目玉とお手玉を器用に操る男の空っぽの眼窩には大きな殿様バッタが居座っていて、触覚を揺らしてぎいぎい鳴いた。俺はただ帰りたくなってつないだ手に力をこめ母さんを見上げたが、母さんはおもしろいわおもしろいわとはしゃいでいて俺はびっくりして何も言えなくなってしまう。白髪の男が狐みたいに笑ってお次ー、と声を張り上げた。天井いっぱいの巨人が石灯籠を片手で粉々にしピンク色の髪した男が刀をずぶずぶ飲み込んだ。虫みたいな羽根の生えた女の子が細長い男の細長い舌に細長い針をどんどん突き刺して手足の数が間違ってる男の子がその多すぎる足を駆使して玉乗りをする。母さんは楽しそうだ。白髪が最後の大目玉ぁ、といって運ばれてきたのは大きな檻で、中には水色の髪の男が閉じ込められている。男が格子を掴んで客席を睨みつけると大人たちはどよめいて、豹だ、と言った。白い豹だ俺はじめて見たすげえ唸ってるぜ、見ろよあの目。誰も格子にきりきり爪を立て出せ畜生と唸る男の話はしない。みんなが何を話してるのかわからなくて、母さんにあれってニンゲンじゃないの、ときくと母さんは一護は変なことを言うのねえあれは豹っていうのよ怖いわね、と優しく笑う。男は出せ出せ出せ出せ出せよ畜生殺してやるお前ら全員殺してやるからと吠えている。出せ!と檻を拳で殴りつけ、そしたらがちゃんと音を立てて檻の蓋が開いた。客がおびえてのけぞって、しかし同じくらい男もびくりと身を震わせて目を閉じて俯く。白髪の男はにやにや笑うだけだ。馬鹿だなあ気付いてないよと誰かが言ってみんなが笑う。男はひらいた出口から必死に目を逸らすようにますます深く俯く。なんで出ないの出られるよ!思わず立ち上がり叫んだ俺を、男は髪と同じ色のきれいな目で、今までで一番強く恐ろしく睨んだ。