恐怖している、

はずもないのに震えるこの手はなんだ。なんで俺はこんなにも汗をかいてるんだろうか 。俺はいつからか藍染様を恐れるのをやめていた。その藍染様の手が俺の頬に触 れる、その霊圧は穏やかなままで、冷たいね、と言うかれの笑みもやはり優しい 。今日はきっと酷くされない。だけどおそらく、青褪めてるだろう俺の肌をなで て藍染様はどうしたの、と問う。傷ついたような顔で、もう酷くしない、と言う 。

「君が本当に好きだよ」

目の前の人の整った顔は見たことがないくらい真剣で俺は皮膚が泡立つのを感じ た。藍染様のこんな、どこか悲しげで縋るような声だって聞いたことがない。握 りしめた拳は震え視界が揺らぐ。汗が止まらないのに身体の中心は冷えている。
この人に対しての怖い、という感情は俺はなくしたはずだった。期待するのをや めた瞬間、目が覚めるようにこの人への恐怖は失せたのだ。その時俺はこの人を 、もしかしたら愛してさえ、いたのだ。だというのにこれはなんだ。浅く短くな る呼吸に藍染様はお願いだから、と言って、とうとう泣きだしそうな顔になる。 恐ろしいわけがないのに喉から漏れた息は間違いなく恐怖を含んでいて、藍染様 はまたお願いだから、と顔を歪ませる。怖がらせたいんじゃない、と言うが俺は 彼が怖いのじゃない。じゃあなにが。俺はなにが恐ろしい。
考えてふと俺は 、俺の頬にとても控えめに触れる藍染様の手を、視界に入れないようにしている ことに気付く。目の端にうつる白いきれいな手から目をそらし、その温度を必死 に、意識しないようにしていた俺はそれに気付いた意識してしまった瞬間絶望、 というものをあじわう。ああこれだこれなのだ。俺はこれが恐ろしい。

「お願いだから怖がらないで。グリムジョー頼むから、この手をとってくれ」

無理だ。
その先に待つものは俺でもわかるくらいに救いがない。目に見えている。なのに どうして。欲しがるのをやめたのに諦めたのに、なあなんであんたは今更そんなこ とを言うんだよ。

「怖い」

藍染様が俺を見つめる。泣きそうな情けない顔で俺を見つめるのによしてくれ、 思いながら、だけど気付いたら俺だって泣きたくなっている。

「怖いんです」

どうせ駄目になる。いつかは離す、離れるこの手に結局は縋って、その日を思っ て俺はまた青褪める。



end