サンキューマイガール








グリムジョーが死ぬということで虚夜宮のみんなが泣いていた。


がたんと大きな音がしたきり静かになったので部屋に入ったら赤いグリムジョーが 床の真ん中に転がっていて、藍染様は部屋の隅で膝を抱えてがたがた震えていた。震 えているのに顔つきは冷静で普段と変わらないようであったけど、血の気が失せ て真っ青だった。
「とてもはっきりした青だろう」と藍染様はこっちを見てちょ っと笑って、血の気が失せていくのがわかるのだと言った。泣けないとも言った 。自分だけには泣く資格がないのだと、血塗れのグリムジョーを青い顔でしっか り見つめながら言った。

「あの子は死ぬ」

そうして、だって僕にはどうしたってわからないのだと言って藍染様はふらふら と部屋を出て行くと、床に転がるグリムジョーがおれを見て、その目がふと笑っ た。俺が人であったなら間違いなく叫んでいた。そうして狂っていた。


井上織姫を連れてきて治せと言ったら女は不思議そうな顔をしてグリムジョーを 見下ろして次の瞬間その場に嘔吐した。目の前の塊がグリムジョーだとは、人(じゃなくて虚だが) だとは思わなかったらしい。涙をぽろぽろ零しながら井上織姫は苦しげ に吐き続けた。それをグリムジョーは眉をしかめて見上げると、驚いたことに立ち 上がった。そしてしゃがみこむ井上織姫に汚え女、臭いからあっちに行けと言っ て、酷く緩慢な動きで部屋を出て行こうとした。井上織姫が伸ばしかけた手を無 視して、触るな、見るな、というようなことを言って「平気だ」と言って、壁を つたいながら出て行った。グリムジョーにはそういうところがあった。井上織姫 はごめんなさいを繰り返しながらずっと泣いていた。


ザエルアポロはざまあみろと言いながら泣いていたという。
お前なんか死ねと言 いながら泣いて、お前が死んだらお前の中の兄貴も死ぬんだなあと言った。ザエ ルアポロが泣いてスタークが泣いてハリベルが泣いてノイトラまでもが泣いて藍 染様もきっと今頃は結局、泣いている。ルピやイールフォルトも泣いたそうだ。 グリムジョーが自宮の天井を見ながら、さっきあいつらが来てさあ、と言ったの だ。あいつら泣いてたなあ。
俺には、それが羨ましくてならない。泣き崩れる奴はぐ ちゃぐちゃで泣くのに忙しそうで、泣き果たした奴はぼんやり虚空を眺めたりし て考えることを放棄している。泣けない俺はただ考える。考え続ける。グリムジ ョーは死ぬのだ。何故ならグリムジョーがそう決めたからだ。ならばもうそれは どうにもならないことだ。


ぼろぼろのグリムジョーが俺を見て、なんつう顔してんだと言う。それは泣いて るみたいにみえるからやめろと言う。泣きたいのだ、と俺は言ったが、グリム ジョーは泣くなと言ってきいてくれない。


「そんな人みたいなことを言うと喉の孔がふさがって消えちまう」

「何で」

「馬鹿だなだって俺たち、こんなに生と正とに反対に存在しているんだから。反 対に生きるんだから、虚は泣いてもきかないから。人みたいに泣いたって、心が 、人みたいになったら駄目、だろ」


グリムジョーの言うことはもう支離滅裂で俺には全然わからない。わからないがわからないなりに汲んでや ろうと思って、俺はそうだなと言ってやって、じゃあ死ね早く死ねよお前なんか 、と言ったけれど、グリムジョーは悲しそうな顔をやめない。多分俺がまだ泣い てるみたいな顔をしているからだ。俺がグリムジョーに死んで欲しくないと願う 限りどうしたってなにを言ったって、それは虚らしくないことなんだろう。だっ て俺はこんなにも泣きたい。


「死ぬな」


死ぬなよ、お前は死ぬなよ。お前は、だって虚なのにあんなに必死に生きてたじ ゃないか。王になりたいなんて馬鹿なこと言って、でもそれに血塗れになりなが ら向かう姿が俺たちには救いになっていたことをお前は、どれだけ揺さぶったか 、なあ知らないだろ。お前くらい生きてた奴もいないのに、お前は死んでしまう 。死ぬことにしてしまった。諦めてしまった。


「死ぬなよ」


俺がこいつを看取らねばならないことに俺は気付いて喉にせりあがるものを感じ た。
グリムジョーの息はこっちが焦るほどに早い。目に光がない。
きらきらして いたお前の目は今思えばあんなにも生きていた。生きてたんだな。


「死なないで、くれ」


頬が冷たい。目が熱い。なにかがせりあがって溢れた。
グリムジョーが、あーあ 、という顔をしてちょっと笑った。誰よりもみっともなく、馬鹿みたいに子ども のように泣きじゃくりながら俺は、自分の変化を感じている。泣き終わったとき俺は もう俺でないだろう。違う何かになるか、消えていくだろう。みんなもそうだ。 虚はお前の死に泣いて虚でなくなるだろう。そのときここはどうなるのか。一人 取り残された藍染様がどうなるのか知れないがきっと、それは。ああお前はその ために死ぬのかもしれないな。死んだのかもしれないな。もう動かないグリムジ ョーのそばで俺は泣き続けている。みんなもどこかで泣いている。だれもがあの このために泣いていた。泣き終わるころには夜が明けるだろう。








end








半分寝ながら書くとこんなことになります

20080412