この世にはきれいなものしかないという高杉の目は暗い。
部屋の隅でうずくまっ て膝を抱えてそんな目でそんなことを言って、お前は俺に何を期待してるんだ。高 杉は一昨日から飯も食べず、しかも風呂にも入ってなかったりするから、俺とし てはそんなこといったって高杉まずお前がきれいじゃないよ、と言ってやりたかったがさ すがに空気を読んだ。なあお前は俺になんて言ってほしいんだよ。教えてくれ たらなんだって言ってやる。嘘もつける。だけど俺にはわからない、悪いけれ ど。


この世には綺麗なものばかりなんて思ってるはずないが、それでも否定し たらもっと隅にいってしまうかもと思うとそんなこと、とてもじゃないが言えない 。綺麗だと思い込みたいのかもしれないしな。信じたいのかもだしな。さて俺はなん て言えばいい高杉。

俺はお前を傷付けたくない、けどお前が全然わからない。わかるふりをして本当は全然わかってない。俺がわからないことでお前がこんなんなっちゃったりするのが嫌だから、お前のことなら何だってわかるような顔をしてるだけだ。ごめんな高杉、俺はお前がわからない。だけど放っておくこともできないし何よりわかりたいと思うわけだよ。お前 を救いたいとかそんなおぞましいことを考えてる訳じゃなく、ただもうちょっと、安心してお前のそばにいたいんだよ。普通に一緒にいたいだけだよ高杉。


この世にはきれいなものばかりだと高杉がまた呟いた。俺はそのきれいなもの全部を高杉にやりたいと思っている。それくらいにはこいつを大事に思っている。その美しいものだらけの中で、取り残されるみたいに高杉が醜くても俺は全然構わないし、好きだと正直に思える。そんなようなことをだらだらと、遠まわしに、時間をかけて言ってみると、高杉が2日ぶりにこっちを見た。「馬鹿じゃねえの」と高杉がすかすかの声で言う。うん馬鹿かもしれない何故なら、俺は泣きそうになっていたので。おかえり高杉。


腹減ったからなんか飯、この時間だからファミレスとか松屋でいいから連れてけと高杉が喋りづらそうに言い、俺はそれに頷きながら駄目なんだなあという思いでいっぱいになる。俺たちは駄目だ。こんなふうでずっと一緒 になんていられない。いや駄目だ負けるな、と昔の俺なら逆に闘志を燃やしていたかもしれないが、今の俺は疲れてしまっている。一緒にいたいだけなのに。高杉が立ち上がろうとしてよろけて、俺に倒れこんだ。馬鹿みたいに軽かった 。苛立たしくて床に叩き付けて踏み殺してやりたかった。
だけど疲れた俺はそう はせず、優しく抱きとめてやり、松屋でもなんでもいいけどまず風呂入んなよと 言ってやる。お前なんか臭いよ。高杉は、じゃあ手ぇ放せよと言いながらこいつも俺にしがみついて離れない。








end