柔らかい殻
土方に触るのは好きだが高杉には怖い。例えば、さっちゃんはいつか俺に高杉の
痛々しさが嫌でたまらないと言ったが俺にはわからないのだ。高杉が死にたい
死にたい言ってたのを知ってるし、屋上で吐いてるのを見たこともある。そして俺に何か期待してるようなのにも気付いている。高杉は吐いたあとで俺を睨むし、あいつが変な顔で笑うたびさっちゃ
んは咎めるような目で俺を見るからどうやら、俺は期待にこたえられてはいないら
しい。けど俺は自分のなにがいけなかったのかも高杉がなにを期待してるのかも
わからなくて、そしてそれは多分俺が大人だからだ。なんていうか、思春期のあいつらの心というものは、失敗した温泉卵ぐらいぐずぐずに軟らかい感じがする。で、あいつらが崩れそうになる刺激でも、固茹でどころかピータンの俺はびくともしないし
きっと認識もできない。だから触りたくないのだ。崩すのが嫌だから。それを見
るのは、その責任を負うのは怖いことだから。その点土方は少し安心だったりす
る。土方もやわらかい心を持っているが、あれは簡単に崩れるほど不安定ではな
い。だから高杉とかは土方が好きなんだと思うよ。
だから俺は高杉や、高杉の痛さを代弁できるさっちゃんが怖くて、お前が好きな
んだと思うよ。
「嘘ばっかだ」
好きだと言うのに土方はうなだれてる。なんでだ、これじゃ駄目か。駄目なのか
。じゃあ本当は土方こそが一番やわらかい心を持っていて不安定で、だからこそ
それに惹かれてるのだ俺は。大人だから。
「…もういいよ先生」
わかった今度こそ真実を言おう。高杉の痛々しさを怖いとか言ったけど俺は本当はどうでもいいのだ。たしかに可哀相だけど、俺は、あいつもいつかは
大人になるとしか思ってないから。やつらの痛みを思春期とか青春とかいう言
葉で美化できる、俺みたいな大人に高杉もいずれなる。土方は、俺と高杉のなに
がそれほど違うっていうんだとか言って、なんで俺なの、なんで高杉じゃないの
、と言ってしゃがみこんだ。俺はなんとか自分が高杉でなく土方を特別に思う理
由を探そうとするが結局言葉に詰まってしまう。高杉は先生がいたほうがよくな
る高杉が可哀相だ高杉が寂しそうだ俺といても…俺のせいで。土方がしゃがみこ
んで膝に顔を埋めて呻きつづける。それに俺は土方の痛さと自己嫌悪と少しの優
越を感じとるけど、どうなんだろうわからない。大人の俺に高校生の正しい心情
なんてわかる訳ないはずだ。だから…ああだから、本当は、土方に触るのは怖
い。高杉を崩すことで土方も崩れそうだから高杉に触るのも怖い。そんな責任は
俺の手に余る。それを知っていて、それでも土方に触りたいと思う。
end
自分で書いといてむかついてきた