銀のエンゼル


駅前のコンビニは電車が来るたび人が押し寄せる。そんな中で男子高校生が二人も 通路にしゃがみこんでたら当たり前に迷惑なのはわかってるし実際白い目で見ら れたりしてるけど、そこは若気の至りということで許してくれ。厚顔無恥が没個 性でいられるのは高校生までだから今日くらいやりとおすぜ俺は、という強い意志を持って俺と高杉は銀のエンゼルを探す。教室で山崎のチョコボールを食べながら銀のエンゼルを一枚だけ持ってい るという話をしたところ、高杉が俺は一度も当たったことがないと言ったので 、帰り道に寄ったコンビニでこうして探し続けてるのだ。


「土方、チロルの杏仁食べたことある」
「ない」
「食ってみ、笑えるくらい不味いから」
「あーじゃあお前、うまい棒の納豆は?」
「あれ俺好き」
「いやだってあれ糸引くぞ」
「そこがいいんじゃん」
「げえ」



関係ない菓子の話をしながらも、二人とも両手にはキョロちゃんの箱を握ってい る。外から見たってわかる訳はないのだけど、超直感(マフィア漫画のあれ)が働 くの期待してピーナッツキャラメルいちご帰ってきたミルクの箱を順番にいじくりまわ している。
ガタンゴタン電車の近付く音がして、しばらくするとまたどっと 人がなだれこんできた。床に置いた俺らの鞄が控え目に、時にわざと蹴飛ばされ る。これでもう何本目だろう。見送った電車の数は、そろそろ二桁目に突入しそうだ 。

そして電車が来るそのたび、高杉の肩がちいさく揺れるのを俺は知っている。
俺は気付かないふりで棚を漁り続け、一度高杉が完全に手をとめ何か言いたげにこっちを 見た時だけ「ちゃんと探せよ」と言った。ほっとしたように息を吐き出して、芋けんぴの美味さを語りはじめる高杉の首筋に、真新しい煙草の焦げ痕があるのを知ってい たからだ。



缶の中身はどんなだろうなあと、話しながら俺たちはどんどん暗くなる空 から必死に目をそらしている。本当は早く帰らないといけなかった。高杉は多分 、また母親に殴られる。


コンビニ寄ろうと言ったのは高杉で、銀のエンゼルを見つかるまで探そう と言ったのも高杉だけど、時々窓の外に目をやるこいつよりも多分、俺のほうが 真剣に探している。電車がまた一本去っていった。

缶の中にはきっといいものがたくさん詰まっている。
こいつにそれをやりたいと思うのは、多分間違ったことだ。そんなふうにこいつ をみるのはこいつに対する侮辱かもしれなかった。第一あんなものに高杉が本当に必要としてるものは入ってない、けど。だけどそれでも俺はこいつにそれをあげたかった。
金を一枚、もしくは俺が持ってるのを含めてあと銀四枚。それを どうにか見つけたいのに、箱を覆う薄いビニールが高杉の小さな小さな小さなさ さやかすぎる幸福をさえ、阻む。
外はもう真っ暗闇で、電車から降りてくる人 も少なくなっていた。


「わかんないな」


呟いて笑う高杉は、あと四枚は遠いな、と言う。土方はやく五枚揃うといいな。

俺は、ここがコンビニじゃなかったら間違いなく殴りとばしてたと思い、でもコンビニだから、キョロちゃん五つか六つを引っ掴んでレジに持ってくことしか出来なかった。






高杉は俺に対抗してキャラメル四つとミルク三つの計七つを買った。コンビニの外で全部のビニールを剥がしてくち ばしを開く。全部真っ黄色だった。高杉はしょうがねえよと俺を励ました。なあ 高杉お前馬鹿じゃねえの。

何も言えない俺をよそに、高杉はチョコボールと一緒に一本だけ買っていたチョコバットの封を切って、あ、と声をあげた。無言でビニールの裏側を示す。……ホーム ラン。

二人ともしばらく無言でそれを見つめたあと同時に爆笑した。すげえ!!
転がるように店内に戻って包みを見せるとバイトの女の子はあっじゃあもう一本 どうぞ、と言い、良かったですねと笑った。ありがとー!!と馬鹿な高校生でし かない俺らはどれにしよう!また当たったらすげくね!とか言いながらまた菓子 の棚をあさる。そうやって厳選したチョコバットを、高杉はやるよ、と偉そうに 言って俺に放りなげた。そうしてゲラゲラ笑いながら、俺たちはようやく改札へ の階段を登る。


俺の乗る電車と高杉の乗る電車は真逆だから、電車が来るまで、線路を挟んで向 かいあいながらチョコバットをかじった。まもなく〜行きの電車が…と、高杉側 のホームでアナウンスが鳴った。さっきのでちょっとハイになってる俺はアナウンスに負けない声を出して高杉に呼びかける。


「エンゼル見つかったら、そんで缶詰め貰ったら、俺らで山分けしような! 」


おー!と少し恥ずかしそうに叫んだ高杉の手には、べだべたするだけの空っぽの ビニールが、しっかりと握られている。あれはバイトの女の子によってホームランの文字が塗り潰されていて、もう何も貰えはしない。ただのゴミでしかないそれをしかし、高杉は心底大切なもののように掴んでいた。


「高杉!」


なんだか、泣きたいような衝動にかられて俺は大声を上げる。帰りたくないなら帰りたくないって言え馬鹿!ちょうど電車がホームに滑り込んできたせいで、その時高杉がどんな顔をしたのかはわからない。だけど電車が轟音をあげて行ってしまうと、静まりかえる対岸のホームに高杉は一人ぽつんと立ち尽くしていて、そうしてへらりと笑っていた。


「土方ぁ今の、終電。」


笑って言って、だけどその声はなんだか震えているので俺はたまらなくなる。
間違って ようが俺はなんだってやれるしそれに、本当はお前もなんだってできるよ高杉。だって俺らはまだ大声で笑えるし高校生だ。


今日うち泊まれよ、と言った俺に高杉は小さく頷いた。
ホームの黄ばんだ電灯の 下、あいつの白い顔が一瞬だけ崩れるのが見えた。








end








二人が深い意味とか全然含まずそのまんまの意味で仲良しであればいいと思う。