Gremlins Shout Shit! Shit! Shit!
高杉の痛々しさは私の胸を打つ。誰かにいてほしいくせに一人でいたがるふりを
したがる高杉は可哀相なことに、その滑稽さを自覚してしまっている。無駄に聡
くて考えすぎなせいで、自分を取繕う言葉の裏に自分で気付いて赤面してしまう
のだ。馬鹿だったら良かったのにね。
そんな高杉は教室でも浮きがちだが、みんなが高杉のそういう性質を知ってる訳ではないから、それは体育で着替える時に見
えるたくさんの青痣赤痣タバコの焦げ痕のせいだろう。そしてクラスメイトの一
部が高杉を馬鹿にしたり疎外するのは、親に愛されない子供というやつが割とわ
かりやすい弱者だからだろう。可哀相な高杉。あんたが悪いんじゃないのに。だ
から今、その一部のクラスメイトに高杉が馬乗りになって殴り続けているのを私
は飽きもせず眺め続けている。
高杉の下で血だるまになってる男は私の彼氏だ。
屋上でヤりたがった彼はそれを高杉に見られて必要以上に慌て、高杉のくせにな
どと罵った挙句殴りつけたのだ。高杉が悪いんじゃないのに。そういう訳だから
高杉が拳をふるうのは100%自分のためで、ドMだと公言してた私がそのせいか、やたらそいつに殴られてたせいでは全然ない。偽善的な暴力は気持ち悪いが目の前のこれはとても誠実だ。あれは理不尽に対する単純で純粋な怒り。正当な暴力。健全な暴力。頑張れ高杉。
ごく少ない理解者(例えば先生のような)の側で現状に甘んじるな、力を持った優しい大人(例えば先生のような)に救いを求めるな。孤高であれ高杉、今
こそ立上がりその拳で戦うんだ高杉!
「ってか俺が先生に構われてんのが気に入らねーだけだろ」
血塗れの拳をぶんと振って血飛沫をぱしぱし飛ばした高杉は笑って振り返る…っ
てか笑顔なのか、あれ。
もちろんそれもあるわだって土方のクソに加えあんたまで先生と私の時間を奪う
んだものだからさっさと自立して先生に頼るのやめてちょうだいよ。と正直に答えたら
、俺さっちゃんのそういうとこ大好き、と気持ちの悪いことを言われた。しかも
さっきよりはちゃんとした笑顔で。何に満足してるのか知らないが最
初言ってたことだって別に嘘じゃない。高杉と違って正しい日常を送る私には、
高杉みたいな人間を見るのが辛いのだ。
悲しい話は嫌いだから虐げられる弱者なんて見たくない。見たくないのに高杉は目の前でさっきみたいに笑ったりするから、私は嫌になってしまう。若い私たちが必要としてるのは本当はちょっとのことで、だというのにそれらを全然持ってない高杉に私は悲しくなるし、そんな高杉から更に奪って殴って踏みつけにして疎外する奴らに、怒りを覚える。助かってほしいし救われてほしい。まあ…
助けたいとまでは思わないけど。だから早く戦ってよ高杉。戦って弱い子供の話を終わ
らせてよ。私は弱者が泣き震えながらようやく行使する暴力が好きなのだ。一人で立ち上がり恢復する、その姿を愛してるのだ。
「性欲処理のためだけに彼氏つくる女とは思えないくらい健康的な思考だね」
この台詞じみた物言いを、高杉はあとで恥ずかしくなっちゃうんだろうなと思いつつ訂正をいれる。だけじゃなくて先生へのあてつけでもあるんだけどね。効いてないけどね。そう言うと高杉は可哀相な目で私を見た。やめろよ高杉の癖に…ってあれこれじゃあ高杉の
下で真っ赤になってる私の彼氏かつ一部のクラスメイトと同じじゃないか?いやいや私は本当に高杉
を可哀相に思ってるのだ。私に少し似た、私よりずっとずっと可哀相な高杉。頑
張れ。あんたは頑張らなきゃならない。
「人生を勝ち取れ高杉!」
私の大声に気絶してた血だるまが呻いたので、高杉はほぼ反射的に殴りつけた。
跳んだ血が雲一つない晩夏の空に映えてとてもとても綺麗だった。高杉はうんと頷いて、やっぱり微妙な笑顔で私を見る。
end
でも自分よりは可哀相であれ