世界なんて正直どうでもいいんですと古泉が言った。いつもどおりチェスの駒を ありえない位置に置きながら、いつもどおりのうさん臭いくらい完璧な笑みを浮かべて。 俺は、へえこんな温厚そうでぱっと見いかにも好青年そうな男でさえ そんな攻撃性を秘めているのだなあと思い、それが思春期というもの なのだなあなどとぼんやり考えながら駒を動かした。
部室で二人きりというのは珍しく、何よりもこいつがこんなこと言う のはありえないはずのことだった。しかし さっきから世界なんて全部燃えてもいいんじゃないかとか 世界なんて滅びてしまえと思わな いでもないですとか、こいつのいつも通りの煮え切らない物言いがやたら 癇に障る。思わないでもないです?なんだそれは。心情を吐露する気なら 変な出し惜しみせず全部吐いちまえばいいのに。なんなんだお前は これ愚痴なんじゃねえのかよ。
と、言ったら古泉は少し息を詰まらせて、それからゆっくりと微笑むと、 いっそ消えろと思います、と言った。

滅べ壊れろなくなれなくなってしまえ、もう知らな い。 古泉は嫌味なくらい綺麗な 声で世界への呪詛をさらさら言い募っている。ああそれでいい。

古泉が守ってるこの世界この星、それは古泉を病ませ傷つけるものでしかないら しい。いいんじゃないか古泉、捨てちまえこんなもん。答えながら駒を進める。 俺もお前がそんなふうにしか笑えない世界なんて死ねばいいと、思わないでもないよ 。そう言うと古泉は笑ったが、もう完璧には全然見えなかった。 「あなたが」古泉の声もがたがただ。泣くんじゃないかとさえ思った。
「そんなこと言うあなたがいるせいで、僕はここを見捨てられないんです」

古泉が適当に置いた駒が倒れる。震える指を握りしめてこいつが俯いたりするので その頭をぐしゃぐしゃに撫でてやりたいような、うすら寒い気分に なってしまう。出来やしないが。「チェックメ イトなんだけど古泉」


こいつとのゲームはやはり面白くないこと この上ない。今日はもうなんもかんもお終いにして帰りたい。 いつも通りことなかれ主義で怠惰が好きで投げやりな眠たい頭の奥で、だけど 俺はこいつの携帯を奪って壊したい気持ちになっている。 俺だって思春期だ。



かがやける世界の滅亡