従業員と上の人たち(橙色の灯火)





長くて暗い廊下を少女と歩いている。
少女は黙って私を導いていて、私はただ彼女についていく。
知らない子であるし、どこに向かっているのかもわからない。
それでも彼女は弾むように歩く。黙っていても、彼女について行けば大丈夫という 気がしている。彼女もそれがわかっているようで、沈黙は決して嫌な感じにはなら なかった。お互い気持ちを緩めて歩いている。それが互いにわかっている。
廊下に橙色の灯がついた。彼女の金色の髪が暖かい色に染められた。

「こっちですよ」

そう言って少女が大きな障子を左右に開けた。宴会場であるらしい。驚くほど広い。 畳がどこまでも広がっている。橙色のあかりがそこかしこに灯されていて、廊下より は明るかった。中に入ると後ろで障子が閉まる音がして、振り返ると片方に眼帯をし た従業員がきれいに正座をして障子に手をかけていた。そしてお辞儀をすると、黙っ て私と少女の後ろについてくるようだった。
無人の宴会場を横切ってしばらく進むと、 中庭に面した外廊下に出て、そこを三人で歩く。あたりはとても静かだ。ぽたぽた降 り続ける雨に濡れた庭石が、橙の灯火に照らされ柔らかく光っている。庭と反対側には 障子がどこまでも続いている。そのうち、障子の内側から黄色く輝くように照らしてい る座敷が見えて、少女はその障子を開いた。橙色のひかりが眩しく溢れ出す。中に通さ れると、眼帯の男は一礼して廊下の奥に消えて行って、少女は「いま呼んできます」と 言って、座敷の奥にぱたぱたと駆けて行った。
座に着くと白い顔の少年がお茶を持って 来て、暗い目でこっちの頭の先からつま先までさっと眺めた。そしてそのまま何も言わ ず下がっていく。雨はまだやまないようだ。


「お待たせしました」


そう言って入ってきたのは背の高い若い男で、さっきの少女が寄り添うように傍に控えて いる。にこにこ愛想の良い笑みを浮かべてはいるが、目にはどこか人を見下したようなと ころがあった。表現できない妙な色合いの瞳をしていて、それから白い手袋をしていた。 その長い指を鳴らすと料理が運ばれてきて、男と向かい合わせで食べ始める。豪華で見た 目はとても綺麗なのに、不思議と味がまったく感じられなかった。

「覚悟はあるんでしょうね」

と、男が言う。少女は座敷の奥の、障子の向こうにいて、ホテルの制服をぶかぶかに着た 少年と何やら楽しげに喋っている。男が表情を一変させて、残忍そうな笑みを浮かべた。

「帰るなら今のうちですよ。ほら、あいつらからも言われたでしょう」
「そうですね。全部忘れて、早く帰れと言われました」
「無視するのですか」
「ええ。だって、彼らは」

そこまで言ったところで、庭のほうからざわめきが聞こえた。振り返り、身を乗り出すよう にして覗くと、庭の向こうの宴会場に橙色の灯火がいっぱいに溢れて、大勢の影が賑やかに うごめいていた。


「彼らは、」


口元に笑みが浮かんでくるのを感じた。あそこに、水浅葱の彼もいるだろうか。


「…私の、部下ですから」


男が口が裂けるように笑って、いいだろう、と言った。この地位を、お前にくれてやる。 障子の向こうで少女が嬉しそうに笑った。私も笑う。今度こそ最後まで一緒にいてやろうと、 橙の灯を見ながら誓った。